井上理恵の演劇時評

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zoom RSS NHK教育チャンネル放映「吉田隆子を知っていますか」(2012年9月2日夜10時〜11時)

<<   作成日時 : 2012/09/05 07:46   >>

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「吉田隆子を知っていますか」を観た(9月2日)

女性作曲家・女性指揮者のパイオニア吉田隆子を知ったのは、劇作家久保栄の恋人であり妻であったからだった。二人は今でいう〈事実婚〉という関係であった。その点ではらいてう平塚明子と変わらない。音楽家吉田隆子は、まぎれもなく日本の新しい女、モダン・ガールの一人である。

 わたくしの本『久保栄の世界』(社会評論社1989年)に「吉田隆子の軌跡」を入れて、彼女の半生や仕事について随分昔に記したことがある。
 
 この論文は、1988年に出た『社会文学』(日本社会文学会機関誌)の特集「女性解放と文学」に載せたもので、多分吉田について書かれた論文の最初ではないかと思う。

 フェミニズムの浸透と共に、これまで埋もれていた女性たちの仕事に学問的に光が当てられ始めた時だった。
この号には他に相馬黒光・与謝野晶子・田村俊子などの論が収められている。

 興味のある方は、『久保栄の世界』や『社会文学』を図書館やアマゾン、あるいは書店で見ていただきたい。

 今回のNHKの番組では、新しい女というよりも〈プロレタリア芸術・音楽〉という側面のみが強調されていたように思われた。

 日本国家の軍人の家に生まれて、西洋音楽に惹かれ、新しい女に成長するのはそれ相当の覚悟と努力がいったはずだ。
〈新しい女〉であったから〈新しい思想―反戦と自由・平等〉に惹かれ、音楽の師と離れ、中野鈴子(中野重治の妹)の詩「鍬」に曲を付けて、その反響を身を持って体験して、これからの自分の進むべき道を確信したのではなかったのか・・・・・。

 プロレタリア音楽運動(PM)にかかわったのは1932年から34年であった。

PMが国家によって潰されてから吉田の本格的活躍が始まったのだと思う。

 吉田は久保栄と出会い、演劇に音楽を入れるという斬新なことをしたのである。その辺りはこの放送では全然触れていない。

 現在、現代演劇に音楽が入るのは普通の事であるが、1930年代半ばまで、日本の現代劇(新劇)には効果音以外の音楽はなかったのだ。

 それを初めて導入したのは演出家久保栄であり、作曲家吉田隆子であった。

 これはまさに画期的なことであった。

 1934年前進座の久保栄演出「牛を喰う」で音楽を入れた。その後、本格的に新協劇団の「ファウスト」「群盗」「火山灰地」で作曲をし、劇場で生の音楽を演奏した。

 今から思えば考えられないくらい贅沢な上演であり、演奏であった!

 言わずもがなの事であるが、新協劇団はプロレタリア演劇ではない。

 そういう仕事があったからこそ、与謝野晶子の「君死にたもうことなかれ」のオペラ脚本が吉田の手で書かれ、
作曲がされた。日本で初めての与謝野のオペラが誕生したのだ。

 吉田隆子の仕事をどのように位置づけるかは、残されたものに任される。

 NHKという巨大な権力のあるマスコミで、貴重な番組を作るのであるなら、しかも久保栄と共に歩んだ吉田を取り上げるならば、PMばかりを強調せず、演劇的仕事にも眼を向けるべきであり、演劇研究者に意見を求めるべきであったろう・・・・・

 彼女の仕事はそれだけ先駆的であったのだから・・・・・

 音楽は音だけで存在するのではない。
どんな時代にどんな所で誰に向けて書かれ、演奏されたのか・・・・だろう。

 番組中のヴァイオリンニストの、〈弾いているうちに意識が高まってくる、激しくなる〉という発言は、吉田の熱情が表現されているようで興味深かった。





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