井上理恵の演劇時評

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zoom RSS 宝塚バウホール公演 花組瀬戸かずや主演「アイラブアインシュタイン」(谷貴矢作・演出)

<<   作成日時 : 2016/09/25 14:19   >>

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瀬戸かずや主演「アイラブアインシュタイン」を視た(2016年9月22日マチネ)

 劇場内の観客の熱気と喜びとが伝わって来て、椅子に座っていてもかなり熱かった! 

 矢張り宝塚は、研7以下の演者ばかりをバウホールで主演させないで、
  新人公演卒業後のスターたちを、どんどんバウの舞台で主演させるべきだと痛感・・・・
   それが、宝塚の新たな道を生み出すはずだ。何しろ下手じゃないから、安心して見て入られるし……

 予想通り、舞台は瀬戸かずやのクールで端正な佇まいの中で進行し、〈かずやワールド〉が展開

 サイエンス・フィクションラブ・ストーリー 『アイラブアインシュタイン』 というのが、宝塚の宣伝文句だった。
    以下、引用すると・・・・・

 「20世紀中盤、天才科学者アルバートが開発したアンドロイドは、人々の生活になくてはならないものになって  いた。世俗の喧騒を逃れ隠遁生活を送るアルバートのもとに、ある日、エルザというアンドロイドが助けを求め  にやって来る。働き口を奪われた人間達による反アンドロイドの機運が高まる中、人間と平和に共存する道を  模索する為、自分たちにも感情を与えて欲しいというのだ。エルザに亡き妻ミレーヴァの面影を見たアルバート は、科学者仲間であるトーマスの力も借りつつ、エルザに感情を与えようと奮闘する。ひたむきで純粋なエルザ に次第に惹かれていくアルバートだったが、エルザはどうしても「愛」の感情だけは理解することが出来なかっ  た。愛とは何かと問われたアルバートは、ミレーヴァをどんな風に愛していたのか、どんな感情だったのかを伝  えようとするが、何故かどうしても思い出せないのだった…。 果たして、「AI」は、「愛」の感情と「I(自我)」を持つ 事が出来るのか。

 瀬戸かずや主演でお届けする、サイエンス・フィクションラブ・ストーリー。
  なお、この作品は、演出・谷貴矢の宝塚バウホールデビュー作となります。」 

 こんな文章で読むと、〈旧いっ〜〜〜〉感が、満載になるが、舞台は違った! 

 聞くところによれば、世界の演劇界ではアンドロイドが焦点になっているらしい。
  このところ5,6年ヨーロッパに行っていないから、その辺りの事情は不明だ。

   昔、手塚治虫が、ロボットを作った・・・・・宮崎駿もロボットの兵士を登場させた・・・・

平田オリザがロボット演劇やアンドロイドを登場させる芝居(三人姉妹)を上演している。
 
   わたくしが関わってきた研究者集団の〈芸能における身体論〉も実は、
     そういう人間以外の存在に関する演劇・演技を検討したので、
      非常に興味があってバウホールの観客席に座った・・・・・・(台本未見)


  天才博士アルバート(瀬戸かずや――誠にスターであった)、
  心理学者で死んだ妻ミレーヴァ(桜咲彩花――暖かい雰囲気を上手に出していた)、
   アンドロイドの女性エルザ(城妃美伶――健闘している)、
  博士と同業の研究者でミレーヴァの弟トーマス(水美舞斗――変わった役どころを見事に演じてた)、
 
    アンドロイドの執事ハンス(天馬みちる)、同メイドアンネ(梅咲衣舞)、
    アンドロイド製作会社の社長(冴月瑠那)、 この三人・・・・・舞台に一味加えていていい・・・!!

国家人間主義労働者党の幹部レオ(英真なおき)、同エヴァ(白木あかり)、党首ヴォルフ(亜蓮冬馬)
  同党幹部(和海しょう・冴華りおな・綺城ひか理)・・・・等々  悪の役どころを順当に演じてた。

  一幕は現在時間。アルバートは、実験室の事故で記憶が消えている。そして社会から隠れて生活。

   ドラマは、アルバートの記憶が戻るのか・・・・という問題と
        アンドロイドに感情を植え付けることが可能かという問題  を提出して進む。

   制作会社社長と労働党幹部のレオがアルバートを探している。
 かれらは「知恵の実」(?)というアンドロイドに植え付けて意識や自我を可能にするものを探している。
      つまり、アンドロイドを人間並みに感情を持つ存在にしたいと考えている。

 もちろん、アンドロイドの兵士をたくさん作りだし、人間を戦争で死なせないようにすることが目的だ。
     レオは、かつて戦争の兵器工学の博士であった。そして息子を戦争で亡くした・・・・。        

        かれらは資本主義社会の「惡」の役回りを持つ存在だ

    労働党の党首が、登場すると、その発言は、全てレオが教えている。
    その様子から、おそらくアンドロイドという感じが、観客には分かる。しかし党員はそれを知らない。

    アンドロイドには、段階的な習得度がカイロにはめ込まれているらしい。
    アルバートの執事もメイドも比較的高度なアンドロイドである。(この二人の表現がなかなか見事)

     アルバートは、幻覚・・・幻想で妻ミレーヴァと話すことによって、徐々に記憶が戻り始める。
       エルザが、やって来てミレーヴァに似ていることからそうしたことが可能になる。

     エルザは、ミレーヴァの弟トーマスが作って、アルバートに送りこんだ。
     トーマスは、〈知恵の実〉を身体に隠している。・・・・どこに????(あとでわかる・・・・さてどこか?)

    この作品の凡庸な所は、只一つ、国家労働党をナチス集団の如くしたことだ。

    もちろん、20世紀中盤と言う時代だから、それは可能かもしれないが、
       ナチスは、戦争は、1945年には終わっている。

    むしろ時代設定を、ある時代のある時、とかいうようにして、
     悪の集団のような国家人間主義党を〈普通の政治集団〉にしたほうが良かった。

     現実の「悪」は、実は〈普通〉の顔をして、人民を騙しているからだ。

    二幕で明らかになるのは、実は、アルバートもアンドロイドであったことだ。
       トーマスが作った。事故で死んだアルバートを救うために・・・・

    アルバートの脳細胞を埋め込まれたアンドロイド・・・・・これは衝撃で、観客もビックリ・・・・・
     この設定は、瀬戸かずやの〈クールさ〉があって可能だったのだろう。

    そしてもう一つ人間主義党の党首が、かつてアルバートに救われ作られたアンドロイド。
      これには、出演者がビックリ・・・・・

    こういう二重の仕掛けがあり、さて感情の方はどうかと言えば、

    〈知恵の実〉をはめ込み感情が極限に達すると、破壊する・・・・・

    つまり、作者は〈アンドロイドに感情の――心の創造〉は、不可能という結論を出す。

    科学者は、何でもできると思ってはいけない。人は神にはなれないという結論である。

     優れた警鐘だ・・・・!   

 
   男性たちが人間そっくりの創造物を作りたがっているのは、知っている。
    産む性の〈女たち〉に、反旗を翻しているのかもしれない・・・・・・



     ここに登場するスターたちは、みなそれぞれの個性を生かして、
    知性や温かさや冷たさや愛らしさ・・・・を描出しながら科学の世界の恐ろしさを見せてくれた。

     人間もアンドロイドも、皆、好演で好感の持てる舞台であった!!
    
   いつもながら、宝塚のスタッフたちのプロの力に敬服する(装置・衣装・音楽・照明等々・・・・)
    新しい演出家の今後の進展に期待したい・・・・・!

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