井上理恵の演劇時評

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zoom RSS 国際演劇祭 イプセンの現在「人民の敵」変奏曲社会の敵は誰だ(イプセン原作、毛利三弥台本演出)

<<   作成日時 : 2016/11/27 18:37   >>

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名取事務所「人民の敵」変奏曲社会の敵は誰だ(毛利三弥台本演出)…を観た(2016年11月26日 あうるすぽっと)

 現在、日本が直面している問題・・・・〈社会の敵は誰だ〉を前面に出して、立ち上がらないわたくしたちに問いかけた舞台だった! これをみると、先日観た坂手洋二の新作も、共鳴する問題意識であることが分かる。

 それを同じものとして受け取る観客がいるのかどうか、それが一番気になった。

 台本演出をした毛利三弥はこの催しに次のように記している。(「IBSEN NOW 2016」)

 「世界が混沌と激動のさなかにあるとき、日本だけが安泰であることはできない。世界の古典演劇が現代化の波にさらされているときに、イプセンだけが安穏としていることはできない。古典と現代の接点であったイプセン劇の
現代的上演は、われわれの社会的立場と演劇的思考を如実に示すものとなる。」

 そしてこの変奏曲は、明治の田中正造の谷中村・足尾銅山(所有者古河市兵衛)の激しい権力との戦いの運動の再現から始まった。
 
 ついで本題の原発問題、原発を誘致するかしないのか・・・・地域の経済問題はどうする・・・・ということも含めて
まだまだ、解決せずに横たわっている問題に進む。

 実は、『宮本研の劇世界』(仮題)を研究仲間と来年1月に社会評論社から上梓する予定で、
原稿を出版社に渡したのが、今月初めだった。

わたくしは田中正造の運動を扱った「明治の柩」論を書いたから、古河市兵衛が出てきたときには、驚いた。

 谷中村・足尾銅山問題は、日本の公害の原点と言われ、またその闘争もあらゆるモデルケースとして現在まで通用するものであった。(詳細は来年出る拙論を見てほしい)

 演出の毛利三弥が、そこに遡り、新演劇で上演した「社会の敵」(イプセン作「人民の敵」の脚色)を、幕開きに置いて現在のわたくしたちが抱える問題――原発の可否――を取り上げたのは、時宜にかなっていると思った。

 先日の坂手洋二は、沖縄と米軍問題を取り上げていた。
つまり現在のわたくしたちには、未解決なこの二つの重要な問題が突きつけられているということだ。

 討論劇は、芝居にはなりにくい。
というか、討論や報告では、近代劇の父でもあるイプセン流の「回顧破裂型」(坪内逍遥)を作れないからだ。
それで畢竟、討論や報告の提出で終わってしまう。

 東京新聞の「こちら特報部」でしばしば取り上げられる問題がそこにはあって、舞台ではある家族の原発誘致賛成と反対という両者の立場を設定して、話が進んだ。

 もちろん結論は出ない。現実にいまだ結論が出ていないし、観客に共に考えようと促していたからだ。

 先日の坂手洋二の舞台とともに、考えてみた。

 いま、わたくしたちは現在と未来に大いなる禍根を残す問題を抱え込んでいる。しかしそれを考えている人々は少ない。資本主義下の民主主義という数が優先する政治運営方法をとっているからだ。

 常に少数派の意見は消される。

しかも往々にして少数派の方が、あとから見ると真実を付いていることが多い。

それは、現実の体制内思考方法で生きている人々が圧倒的に多いからだ。
であるからこそ同じ体制が長く続くのだ。

 そうした現状を前にして演劇に出来ることはないのか・・・・
それが先日の坂手洋二の新作であり、今回の変奏曲だったのだろう。


 思い起こせば、いにしえのギリシャの世界には、市民を対象にした政治的意見を語る演劇の場があったのだ。
それを沖縄問題にも原発問題にも、つかったのだと思えばいいのかもしれない。

 しかし、これが観客に考えさせ・内省させる舞台にはなかなかなり得ないのだと思う。
それはわたくしたちはギリシャの昔とは異なり、あまりにも多くの舞台表現方法を持ってしまったからだ。
写実あり、抽象あり、象徴あり、不条理あり、ミュージカルあり、舞踊あり、パントマイムあり・・・・・・等々


 にもかかわらず多くの先達の演劇人が悩んできたように、今、わたくしたちはこれまでにない誠に大きな厚い岩盤にぶちあたっている。

 その出口は、どこにあるのか・・・・それは各人が思考すること、行動することでしか見いだせないのだろが・・・
口を閉ざさず、声を上げるしかない。

           もちろん各人の可能な方法で・・・・・・絶え間なく…・・

 沈黙からは何も生まれないのだから・・・・・・

 そんなことを考えさせられた舞台、二つ(イプセン変奏曲と坂手の新作)であった。



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