井上理恵の演劇時評

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zoom RSS 直人と倉持の会「磁場」(倉持裕作・演出、竹中直人・渡部豪太・大空祐飛他出演)

<<   作成日時 : 2016/12/24 23:52   >>

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倉持裕と竹中直人の会が作った舞台を初めて観た(2016年12月23日下北沢本多劇場)

 なかなか興味深い舞台であった。

〈資本と表現と社会・・・・とはなにか・・・・そんな問題が提出されていたように思う〉

ストーリーは、「磁場」のサイトで公開されているからあえて触れない・・・・台本未見

(もっとも記述された内容と舞台とは多少異なるし、…・結末も記録されていない)


 資本家多賀谷(竹中直人)は、日系アメリカ人マコト・ヒライという造形画家に心酔していた。
  そして彼の映画を作ろうとする。

 (こんな風に芸術家に心酔する資本家がいたら素晴らしい・・・・昔はいたが、今はいない)


マコト・ヒライに心酔したように、多賀谷は、無名の女優椿(大空祐飛)にも一目見て惹かれ、支援していた。

マコトに心酔した多賀谷はすべての資料を読み漁り、作品も手に入れていた。

 プロデューサー飯室(長谷川朝晴)に小劇団の若い劇作家柳井(渡部豪太)を紹介され、脚本を依頼する。

  映画を撮る監督黒須(田口トモロヲ・・・・黒沢の真似・・??)・・・・ことごとに多賀谷を敵視・・・
  (金を出す人を敵視するのも・・・・子供っぽい・・・・)

  ヒライの人生には3つのターニングポイントがある。
一つは、母くに子との葛藤を経て、戦争、次いで芸術家(??何某…聞き取れなかった)との出会い。
   これで花開いたらしい。

 その三つを、当然にも映画には書き込まれると多賀谷は推測している。

 そして魅力的な女優椿を、その母くに子に振り、演じさせたい。

 しかし柳井は、それらを取り込まずに、ヒライの思想を描出したいと考える。

 (ヒライの思想が何か・・・・これが論理化されていないし、語られないのだが・・・)

 ホテルのインペリアルルームを提供されて、脚本を書く場を与えられるが、うまくいかない。

 この一室で、多賀谷、椿、秘書の赤沢(菅原永二)、監督、プロデューサー、担当の客室係時田(玉置孝臣)らと話は展開し、彼らと柳井との関りが上手に構成されている。

 俳優たちは、各人がなかなかはまり役といってはおかしいが、魅力的に上手に演じている。

 欲を言えば、柳井が固執する「ヒライの思想」がいかなるものか、
それが描かれていればよかったと思うが…・・・  それは示されない。
まあ、この辺りがみそで、描くことができないのが、話をあいまいにしていいのかな・・・・?


 芸術の表現とは何か・・・・、あるいは人間が描出する表現とは何か、これはかなり重要な哲学的問題。

・・・わたくしも文章を書くという行為を通して表現に関わる存在として、常に考えていることだが・・・・

  ここには重要な問題提起があると思われる。踏み込んでくれるとよかった!

 一人の人間の歩いてきた道を描き出すとは、何か・・・・・

登場人物のセリフにもあるが、もちろんNHKの大河ドラマ風ではだめなのは、むろんのこと・・・  

 では、その人間をはなれて思想を描出できるかというと

   できないのである。

資本主義社会であるわたくしたちの生きている世界で、金銭的な心配もなく芸術を生み出すとき、

その提供者の希望をどのように取り込むか・・・・・そんな問題もここには横たわっている。

 加賀谷が、煮え切らない柳井の態度に怒りを抑えて、
その怒りを秘書に向けているところなどは、なかなか面白いし、上手に表現している。

 舞台で語られたように柳井が興味を持ったヒライの思想を中心にして、
   ヒライを出さずに芸術家の人生が描出できるかというと、

     こたえは おそらく「否」だろう。  

 思想は、思想だけでは自立しない。 常に人とともに、社会と共にあるからだ。

思想は、社会の中でこそ、思想として生きることができる。

 多賀谷のいう、三つの基点は、ヒライの芸術を描出するうえで欠かせないものだろう。

ぼんやり舞台を観ていると、
なんだか若い芸術家の柳井の主張が「正鵠を射ている」ように思えるのだろうが、
それは違う。

そして多賀谷の主張を受け入れることが、迎合するかの如く感じてしまうのだろうが、それも違う。

 金を出す人が常に誤っているとは限らない・・・・金のない人が常に正しいとも限らない。

 芸術家ばかりではなく、一人の人間の人生を映像に、あるいは舞台に描出するためには、
 事実がまずある、事実を明確に把握する、ということなのだ。
  思想もその事実の中にある。

つまり多賀谷の主張が、実は「正鵠を射ている」のである。これがこの作品の逆説的で面白いところ。


 人生と思想を、いかに料理するかが、作家に求められている。

 だからこそ、何も知らない劇団員の姫野(黒田大輔)に、脚本を書かせると多賀谷が決断した時、
     柳井の中に変化が起こる。

   柳井が、姫野に、ヒライの思想ではなく、事実を語るのだ…・

 多賀谷から送られてきたヒライの造形作品をみて、何の感動も受けない姫野。
  柳井は、その姫野をベランダから落とす。

      この最後が実にいい。  

  芸術に感動しない人々も存在するのである。抽象能力がなければ芸術を受け入れることはできない。


  では、 この舞台を観てきた観客はどう思うか・・・?   お気に召すまま・・・・だ。



 実は、宮本研の戯曲「明治の柩」という田中正造の人生を描き出した戯曲論を夏に擱筆したばかりで、
来年の1月に店頭に出る(「革命伝説・宮本研の劇世界」社会評論社)。

 そんなことで芸術家が、他者の人生をどのように描出するかに非常に興味深く感じていたのである。


  この舞台は、かなり重要な問題提起をしていた。

   が、達者な俳優たちの、時に余計な遊びが加わり、
    笑いに流して、問題が消えそうに思えたが、

     それでも、こんな風に読み取れたから、捨てたものではない。


  竹中直人と倉持裕は、次はどんな世界を描出するのかわからないが、
  次回は、もう少し踏み込んでもらいたい。 興味深い二人組だと思った。

   次回を期待する・・・・





 



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