井上理恵の演劇時評

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zoom RSS 宝塚宙組 朝夏まなと・伶美うらら「神々の土地」(上田久美子作・演出)加筆あり

<<   作成日時 : 2017/09/01 10:45   >>

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上田久美子の新作「神々の土地〜ロマノフたちの黄昏〜」を観た(2017年8月31日 宝塚大劇場)

 朝夏まなとと伶美うららに当てた二作目も素晴らしい!!

ロシア帝国の崩壊が、ロマノフ一族最後の皇帝ニコライ二世(松風輝)妻アレクサンドラ(凜城きら)の血族たち、母マリア皇太后(寿つかさ)、その娘クセニア大公妃(美風舞良)と娘アリーナ(彩花まり)、アレクサンドルの妹セルゲイ大公妃イリナ(イレーネ・伶美うらら)、ニコライの娘二人と息子(オリガ―星風まどか・タチアナー遥羽らら・アレクセイー花菱りず)、そしてニコライ二世の従弟ドミトリー(朝夏まなと)とアリーナの婚約者でドミトリーの友人フェリックス公爵(真風涼帆)、彼の母ジナイーダ(純矢ちとせ)等、貴族たち、で繰り広げられる。

アレクサンドラ皇后の信任厚い僧ラスプーチン(愛月ひかる)。
(余談だが、現在のプーチン大統領は、実はラスプーチンと言った。この悪名高い僧と同じ姓だからラスをとったという話がある)

それに対抗的に存在するボルシェビキの仲間やジプシーたち(桜木みなと・瀬音リサ・結乃かなり・和希そら・・・)

そしてフェリックスと共にラスプーチン暗殺に賛同する近衛騎兵たち(澄輝さやと・蒼羽りく・瑠風輝・・・・ら)


 ロシアの激動の歴史・・・つまり革命を、ロマノフ一族の側から描出、
その中心にセルゲイ大公妃イリナ(ドイツ名をイレーネ)とドミトリーの密かな恋情・・・・・を置く。

 伶美うららという稀にみる麗しいスターが宙組にいるところから誕生したような話。
(キャトルレーヴの伶美うららの写真は大型版も小型版も東京も宝塚も売り切れ!!!
・・・余計なことだが、増刷したほうがいいのでは・・・・・)
 
 舞台は、ロマノフ朝の華々しい場面から始まるのだが、たしかイリナの年長の夫セルゲイ大公が殺されるところから始まった。(「ル・サンク」が出てないから未確認)


 上田久美子は、紗幕や回り舞台、セリ、さらには両花道・銀橋などを縦横に使って、歴史の扉を静かに噂話のように語らせて開ける。イリナは未亡人になった。そして二人の恋は形になっていく。

上田は、舞台の構成と展開が実にいい。
これはいつも上田の作った舞台で感じることだが、
不必要な暗転や間を作らないのが、現代のスピーディーな時間にマッチする。


 序幕に当たるロマノフ一族の登場の場が上品で優雅、この芝居が貴族たちの崩壊の話であることを告げる。
貴族の一族たちを演じるスターたちが、実に優雅でいい。この雰囲気は、宝塚ならではだろう。
しかも「ベル・バラ」のような歌舞伎調でない所が、実に好い。


 イレーネというドイツ読みからロシアに来てイリナとなった大公妃。これものちの伏線になる。
最終場面で一夜の別れの時間を持った二人が、翌朝出発の時、ドミトリーが言う。

〈イリナになる前のイレーネの時に会いたかった〉と・・・・
彼が去る場に発するセリフのために、何度も名前を二人でいう・・・・まことによくできた戯曲だ。


 朝夏も伶美も好演でロマノフの残照のような世界に観客をひきこむ。


 彼らは、せつない恋情を内に秘めながら、革命前夜のペテルグラード(サンクトペテルブルグ・後レニングラード)で各々に託された仕事をする。

彼は、ラスプーチンの暗殺と皇帝の娘との婚約。・・・そう、結婚は政事なのである。
イリナは野戦病院の手伝い。
  ・・・この設定は、なんとなく、ダイアナ妃を連想する・・・・

 オリガの星風は、セリフが金切り声で聞きにくく、一本調子だ。早急に直した方がいい。

 最後、イリナをはじめ、皆が死ぬ。囚われていたドミトリーは、囚われていたが故に生き残る!!

革命中にアメリカに亡命したマリア皇太后とフェリックス親子の場が面白い。
(大空祐飛の退団公演「華やかなりし日々」のロマノフの宝石を思い出した)

寿つかさは皇太后の時は舞台に重みを出して素晴らしいし、アメリカにいる時はまた異なる味を出していた。
俳優は、こうでなくてはならない。素敵なスターだ!

 フェリクスの真風は、ロシアにいて、ラスプーチンの暗殺を企てている時とアメリカに亡命した時との差がない。今少し出るといい。

 初めと最後に登場する、セルゲイ大公の領地の農夫イワンの風馬翔、同じく大公邸の家令の星吹彩翔がなかなかいい。

言わずもがなだが、わずかな登場でいかように演じるかが、俳優の存在意義!


 ラスプーチンの愛月ひかる。
美しい愛月が、このところ汚れ役ばかりで大変だ。

役作りの設定が腰を曲げるという事なのかどうかわからないが、
現実には50代であったし、容貌は「怪奇」といわれ美しくはなかったが、姿は凛々しい。

愛月は十二分に怪しさを表現しているから、腰を曲げずに演じてみては如何かと思った。

 
込み入った内容の、しかも世界の違う場に生きる人々を、宙組の組子は皆がよく理解し表現していた。

 最終場面・・・イリーナとドミトリーの初めに戻る場面、
哀愁を帯びて、ロマノフ一族の終焉を表現していて、いつもながら上田の構成に頭が下がる。

 
ショー

今回は、あまりにも目まぐるしく、似たような場が多くて・・・・困る。

スーツの場のように素敵な場もあったのだが・・・・

この組は「居残り佐平治」ならぬ、〈居残り娘〉があったせいか、最後のトップと娘1のダンスがない。
そのせいかどうかわからないが、朝夏と真風の二人の場が二度もあり、しらける。

最後の男役の燕尾は、陰影もあり洒落ていた。

が、男役が退団するのでもないのに二人でおどるのは・・・???・・・と・・・しらける。


今回朝夏と娘役4人(伶美うらら・瀬音リサ・彩花まり・涼華まや)が退団
するのだから、この5人の場を最後のデュエットダンスのつもりで踊れば、
華やかでよかったのにと残念だ。

ショーは、固定観念に捉われていては、駄目だ。新しい視点の導入が必要だと思う。


   ☆     ☆

 
以前から宝塚の舞台を見ていて思っていた事をこの際一言。余計なことだが・・・・

男役スターは各組に固定的な存在がいなくては宝塚ではなくなるから必要だ。

が、娘役を固定的に決めるのはどうなのだろう・・・

実は、止めた方がいいと思っていた。

芝居に応じて、作家が当て書きできるように組の中から自由に選ぶといいのではないか。

無理に当てている場合があるからそれを防げるし、いつも同じパターンになるのも防げる。

何よりも、そのほうが新鮮でいい・・・・

娘1の役回りは、家父長制下の妻や嫁ではないのだから。


今夏に退団した早霧せいなと咲妃みゆのようなトップコンビには、誰もがなれない・・・・


相手が変われば最後のダンスもバラエティーに富んでいて、きっと素晴らしいはずだ・・・・と思う。

 
☆ ☆ ☆ 2017年10月13日加筆


新国立の「トロイ戦争はおこらない」を見ていて、気づいたことがあった。

よく知られているようにトロイ戦争は、パリスがヘレネーに惑わされ奪い取ったことから起こった。

新しい「トロイ戦争はおこらない」は、あまり舞台のできはよくなかったが、ろくでもないやつのために戦争は起こるということを気づかせる新しい芝居である。

今の日本にはぴったりだ・・・・・・ もうすぐ選挙だが、禄でもない人々がたくさんいるから恐ろしい・・・・


この新国立の舞台を見て気が付いたことがあった。


上田久美子は、イリナを、へレエのつもりでかいたのではないか、ということだ・・・・・・

回りくどいようだが、・・・・・種明かしをすると

ドミトリーがオリガと結婚すると王位を繋げることができるから、市民にも喜ばれてロシア革命は起こらなかった。

ところがドミトリーがイリナ(イレーネ、ヘレネー)に夢中で、王制が終わりになってロシア革命が起こった。

そういうつもりで、イリナという架空の人物を創造したのではないかと・・・・・思った次第。

これはかなり面白い発想である・・・・こういうのが正に虚構の素晴らしさというこだろう。

仮にそうなら・・・上田久美子は非常に奥深く見事な劇作家ということになる・・・・・。面白い・・・








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