井上理恵の演劇時評

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zoom RSS 宝塚宙組 愛月ひかる主演「不滅の棘」(チャペック作、木村信司脚本・演出)

<<   作成日時 : 2018/01/18 13:54   >>

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愛月ひかるの「不滅の棘」を観る(2018年1月10日 梅田シアター・ドラマシティー)

大劇場と同じように、この作品も〈永遠の命〉をテーマにしていて、
美しくせつなさのある愛月ひかるの個性にマッチし、とても洒落たいい舞台が展開する。

愛月には、やはり他者の追随をゆるさないこうした哀愁を表現できる役がいい。

今年は一月から宝塚は問題作の提供で、幸先が好く、これから先が楽しみだ・・・・・・
ブロードウエイのミュージカルを上演するよりも、新作か、原作物を脚色する方が、ずっといい。
これからもこの線で行ってほしい。


 これはチャペックが1922年に発表した三幕のコメディ「マクロプロス事件」(1998年に本邦初訳)が基になっている。

 脚色・演出の木村信司は、2003年に花組の春野すみれで初演したというから、訳が出て早速取り上げたと思われる。(初演未見・台本未見)

 「ポーの一族」は、1972年に連載が始まったというから、50年の隔たりがある両作の共通点は、〈永遠の命〉で、これはわたくしたちに多くの考える材料を与えてくれる。

 「不滅の棘」は一人の医師が〈不死の薬〉をつくりだしたことから始まる。

17世紀初めにギリシャ・クレタ島で医師マクロプロスが国王ルドルフ二世に〈不死の薬〉を依頼された。
彼は王には贋の薬を飲ませ、息子エリイには実験的に本物を飲ませた。

ところが薬は成功し、エリイは〈永遠の命〉を生きなければならなくなる。彼の苦悩がはじまる。

 舞台は、時系列で進み、一挙に20世紀に移動、300年の間にエリイにどんなことが起きたかはわからない。
ただ、どうやら100年ごとに薬を調合しなければ彼の存在は砂と化して消えるらしいこと、

かつてフリーダという女性と愛を交換したこと、

宮廷の楽師であったことなどが、蜃気楼のように浮かぶ真っ白い装置と衣装と響き渡る哀愁を帯びた音楽と共に舞台に表現される。

 今、歌手として人気者のエロールは、かつて自分が愛したフリーダにそっくりの娘の裁判に面と向かうことになる。
 エロールは、彼女がかつて愛したフリーダの孫であることを知る。

子孫の存在を記した記録のありかを知らせる。祖父とは知らないフリーダは彼を愛し始め彼は苦しむ。

エロールは、300年前から人間の社会で人間として生きられない自身の人生に絶望していた。

人間として有限の命をもつ普通の人が送る人生を、エロールは歩くことが出来ないからだ。

年を取らない彼は、かつて恋人だったという老女を前にして愕然とし、フリーダに愛を告白されて哀しみ、
拳銃で撃たれても死なない自分に語る言葉もない。

 この絶望的な状況から逃れるには、100年ごとに飮む薬の調合を記した書類を焼くことだった。
誰もそれに手を貸そうとしない。

 エロールを愛するフリーダは、彼の願いを受け入れて書類を火にくべる・・・・

〈サラサラ〉と落ちる砂になって消えたエロール・・・・・

 かつて権力者たちは、〈永遠の命〉を持つことを願った。

しかしチャペックは、人間が〈永遠の命〉を獲得しても、決して幸せにはなれない。

むしろ不幸である。

有限の命であるからこそ、人は懸命に生きることができるのだと・・・・

おろかな人間の願いを、〈笑った〉のだ。

白一色のお伽噺の如き装置と、白と乳白色の衣装で表現される舞台は、人間の愚かさと哀しみを表現し、

愛月はじめ遥羽らら、美風舞良、純矢ちとせ、澄輝さやと、凜城きら、華妃まいあ・・・たちのリアリズムを超えた表現で素敵な空間を生み出していた・・・・

1月23日から日本青年館ホールで公演。 是非一見を・・・・・

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