井上理恵の演劇時評

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zoom RSS 観客参加型演劇「テロ」(シーラッハ作、森新太郎演出、橋爪功・神野三鈴・今井朋彦・松下洸平他出演)

<<   作成日時 : 2018/01/19 12:38   >>

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シーラッハの「テロ」を観る(2018年1月16日紀伊国屋サザンシアター)

 法廷劇だ。シーラッハは刑事事件専門の弁護士。いつもわたくしたちに問題提起をして考えさせる。
2015年の「タブー」は、今、確認したらこのブログの2015年6月11日にアップしていた。

さて、今回はどうか・・・・
(原作本未見、台本未見)

一人の空軍パイロットの軍人(松下洸平)が被告。場所は法廷。裁判官(今井朋彦)が判決を言い渡すまで。
判決に観客が参加してボウトする。「有罪か無罪か」

証人喚問…証人は被告の上司の軍人(堀部圭亮)、そして飛行機の乗客の妻・参考人(前田亜季)

検事(神野三鈴)と弁護士(橋爪功)との論述がある。
・・・・実はこの論述に〈詐術〉があると、わたくしはみた。

旅客機がハイジャックされた!  犯人は何人なのか、何が目的か、全てよくわからない。
(あるいは論述で語られていたのかもしれないが、不明・・・・)

演出の森新太郎はいう。
 
 「観客に傍観者たることを許さないという点において、その緊迫感は群を抜いている。法を信ずるべきか、良心を信ずるべきか、そんな問いをとことん突きつけてくる唯一無二の法廷劇と言えよう。

 昨年、日本語に翻訳されて以来、私は機会ある毎にこの戯曲を読み返してきた。が、正直言うと、いまだに被告人・コッホ少佐の行動に対して白黒つけられぬままである。テロの脅威を想像すればするほど、迷いは深まるばかりだ。
 いま私達はどのような危機的状況を生きているのか…この作品を通して、皆さんと一緒に劇場で静かに語り合えたらと思う。」


7万人もの観客がいる(サッカー)スタジアムにハイジャックされた旅客機が突っ込むという。
飛行機には164人の人々が乗っている(パイロットや客室乗務員や犯人たちも含むのか、どうかは不明)

 検事の証人喚問で、国家のトップは、スタジアムの観客を即刻退去させる命令をだしていないことが語られる。7万人を、たしか12分(?)位で退出させられるといっていた。50分もの時間があったのにそれをしなかったのは、なぜか・・・・これには触れていない。

実は、問題はここにあり、責任を問うべきは彼(または彼等)なのである。

つまり、これは国家の命令を発する上層部(部署は失念)のトップの大いなる責任で、罪はこの人(たち)にある。
・・・・・ということが既に初めから明らかにされていた。

が、ほとんどそれを気に留めず、
飛行機を撃墜した軍人の罪を問うところが、先に記した‥‥詐術なのだ。

 問題は、直接手を下したパイロットが、7万人を救うために164人を犠牲にしていいのか、というところに収斂されてしまう。

 このあたりがシーラッハの上手なところだろう。この作品は彼の初めての戯曲らしいが、実にうまい。

もともと演劇は、ギリシャの昔から「オイディプス」を見ても分かるようにサスペンスの、謎解きなのである。

作者が作った落とし穴にはまると、パイロットの軍人は有罪になる。

それは検事が、実に雄弁に情感に訴えて、全く次元の違う例題をいくつも出して判断を、ある一つの方向へ導こうとするからだ・・・・・

これに乗せられてしまうと怖いのだ。

 「テロ」のサイトをみると、ヨーロッパは如何やら、無罪が多く、アジア圏は有罪という結果が多いらしい。

わたくしは初日に観て、無罪に投票したが、僅差で、この日は無罪という判決だった。

併しサイトによれば、以後はこれも僅差で有罪ということのようだ。

 この舞台は、あくまでも虚の世界の芸術ではある。

が、この戯曲の根本の、問題提起は何かを把握することが重要であると思う。

単純に7万人の命と164人の命を天秤にかけることでは、実はないのである。

 ここが騙されやすい・・・・ところである。特にアジア人は情感に訴えるとすぐに騙されるから、怖い。

 ハイジャックを防ぐには、有能な国家のトップが冷静に事にあたり、
直接うごかなければならない人たちに究極の判断をさせなければならない状況を作らないことが重要なのだ。

 今更言うまでもないことだが、トップは、大きな責任があり、それを自覚する存在のみがトップに就くことができる。

 そういうことを、この「テロ」という作品は、わたくしたちに知らせてくれた。  

はたしてそういう優れたトップをわたくしたちは、今、もっているのかどうか、・・・それが問題だ!!!

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