井上理恵の演劇時評

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zoom RSS 大阪 清流劇場公演「ANDORRA アンドラ」(フリッシュ作、市川明訳、田中孝弥構成・演出)

<<   作成日時 : 2018/03/11 12:17   >>

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一心寺シアター俱樂で「ANDORRA アンドラ」を観た(2018年3月8日)

 架空の白い国アンドラ(スイスを連想)に住む人々は、自分の国は素晴らしいと思っている。
どこの国よりも平和で人々は優しい。(訳本は未だ読了できないから未読と同じ)

 ところが隣国の黒い国(ドイツを連想)が攻めてくるという風評がある。
どこの国よりも白い国は素晴らしいと思っている市民たちはおびえている。

一方では市民で構成されている兵士(?)が救うだろうと思ってもいるらしい。
この兵士(上海太郎)は実に横暴だ。

 この国の人々がおびえるのは、黒い国がユダヤ人狩をしているからで、一つ問題がある。
元左翼運動家の優れた教師カン(西田正彦)と妻(日永貴子)の息子アンドリ(高口真吾)がユダヤ人夫婦から譲り受けた養子であったからだ。

 平和の国の住民は、ユダヤ人のアンドリを、いじめる。自分たちと違うという理由で・・・・
さらにはユダヤ人とは、狡猾で金儲けが上手という身勝手な既成概念に縛られているからでもある。

 多数が、何の理由もなく、唯一自分たちと異なるというだけで、少数の他者を排除しようとするのである。

 アンドリは、手先が器用で秀でた思考力を持っていて指物師(家具職人)になりたい希望がある。
が、兄弟子(石畑達哉)に邪魔され、親方(隈本晃俊)にも拒否されて、営業マンになることを強いられる。

 アンドリは兄妹として育ったバルブリーン(泉希衣子)と恋仲で結婚したいと考えている。
バルブリーンは、既に兵士にレイプされていた・・・・。アンドリはすぐに知るが、誰にもそれをいわない。
それでも彼は彼女との婚約と結婚を願っている。

が、父親は反対する。その理由がわからなくてアンドリは絶望する・・・・

 隣の黒い国から女(南澤あつこ)がやってくる。市民たちは彼女を排除しようとする。
実は、彼女はカンの昔の恋人で、アンドリの実の母。
アンドリは、ユダヤ人ではなかった! 養父と思っていたカンと黒い国の女との子供であった。

 ここで優れた教師であるカンは、大きな過ちを犯していた。

隣国の女との子供ということで自身が受けるであろう非難を閉じ込めて、
差別視されていたユダヤ人の子供を養子にするという自身の優れた行為を市民たちに示し、
彼等の差別意識の払拭を願うという、誠に都合のいい行動をとったからである・・・・・

他方で自分の偽善的な行為と引き換えに息子に大きな烙印を背負わせることになるという、〈重大な過ち〉〈犯してはならない行為〉をとったということに気付かなかったからだ。

 これが優れた教師カンの大きな過ちであった。
(そのことを自己批判する場はあまりなく、自死したと後から語られるのが、少々残念。)


 アンドリの実母は、市民たちに惨殺され、その罪をみんなしてアンドリに擦り付ける。

アンドリは、ユダヤ人ではないと判明しても、市民たちは彼の父・養母・妹、そして彼の主張にも耳をかさない。
一度、誤って付けられた認識は変えられないのである。


隣国からユダヤ人狩に来た選別官にアンドリは殺される。


 このドラマは、装置も音楽も抽象的で、展開が写実表現ではなく戯画化されていたから面白かったのだが、
一場が、少々だれた。

 舞台展開は、一場をテンポよく進めることで後半が更に映える。
もし、再演するならそれを念頭に置くといいだろう!

 この舞台をみていて感じたのは、まさに日本だと思ったことである。
白い国は日本、付和雷同しやすい日本人だ。いじめや少数の他者を否定したがる日本人!!!

愚かな市民たちは、現在の日本の一般大衆だ。

けれども観客たちは、おそらく自分たちは違うと思っているに違いない。そんなことも思った次第。


 過日(2月28日)シアタートラムで「岸 リトラル」(ムワワド作・藤井慎太郎訳・上村聡史演出)観た。
この舞台の舞台が、大新聞で絶賛されていた。

たしかに俳優たちは上手だったし、欧州の作家だから、構成が明確で上手に作ってある。ただそれだけだ!!

うんざりするほど長く(これも一幕がだれた)、技巧的で、しかも今のわたくしたちに何を手渡してくれたのかといえば、何もない。

 技巧的でできすぎた芝居はもういい。


 演劇芸術は、〈現在生きている人々〉に手渡せるものが何か無ければならない、とわたくしは考えている。

 
その点では今回の清流劇場の上演の方が、数段素晴らしかったと思う。

更に練って、再演されるといいだろう・・・・・・期待している!




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