井上理恵の演劇時評

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zoom RSS 平野啓一郎「ある男」(『文學界』2018年6月号)

<<   作成日時 : 2018/05/13 08:20   >>

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平野啓一郎の「最新長編」『ある男』を読む(2018年5月10日)

本当に久しぶりで、平野の小説を読んだ。面白い〜〜〜! まさに時代の典型がここには描出されている。

平野啓一郎には、デビューの時から注目していた。

日本社会文学会の学会誌『社会文学』の編集長をした時、平野氏に市ヶ谷までご足労いただき
インタビューしたことがあった。

今『社会文学』を探したら2008年7月14日発行の28号で『文学の〈今〉を問う』という特集号だった。
目次をみたら、前年に小田実が亡くなっていてその追悼文も載っていた。
表紙は、友人の舟崎克彦の「ぽっぺん先生」が飛び出して別の世界へ行く図だ。

わたくしは小説も演劇も〈今を生きる〉芸術だと考えていて、それでこういう特集にしたのだと記憶している。

したがってそれを研究する論も〈今〉という時に切り込める対象、
〈生きている時代の典型〉が表出されている対象を論じなければならない、と律儀に思っている者だ。

このインタビューは、出たばかりの小説『決壊』が面白くて企画し、図書新聞に『決壊』の書評も書いた。
図書新聞の見出しは、「匿名という個の抹消された世界への警鐘」だった(2008年9月20日号)。

当時の書評、東京新聞の沼野允義や『波』の大澤真幸の書評とは異なる視点で書いたものだ。
井上著『ドラマ解読 映画・テレビ・演劇時評』(社会評論社2009)に入れてある。


「ある男」は、今発売中だからサスペンスタッチで進むこの小説の内容にはあまり触れないが、何よりも会話を表すカギカッコ(「  」)が少なく、地の文が面々と続く頁がうれしい〜〜。
まさに小説だ。

〈個の変身〉の新たな視点、
〈家〉――〈戸籍〉――〈国籍〉――〈帰化〉――〈故郷〉、
という我が存在の一連の源に繋がる重大事を、
〈戸籍を売った男〉・・・・・〈変身した男〉・・・・それを愛し愛された女と子供の話を縦糸にして、
〈男〉は誰なのかと〈他者の過去〉という迷宮へ歩みを進める在日三世で〈帰化〉した弁護士の家庭の事情を横糸に絡めながら進む。

『決壊』後、10年を経て平野の文章も柔らかくなり、読みやすく滑らかだった。

今、わたくしは研究仲間と「つかこうへい」の小説・戯曲・映画・舞台を検討している最中で、
その意味でも平野が提出した、在日問題と差別問題、閉鎖的な日本人の意識‥‥等々に非常に惹かれるものがあった。

 ライトノベルや新しい身辺雑記のわたくし語りよりも、
古い言葉―−死後になってしまった「本格ロマン」・・・・・長編小説を手に取って欲しいし、
そして願わくば‥‥考えてほしいと思う、「日本国の今」「世界の今」を・・・・・。

 是非、一読を・・・・・!!!




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