井上理恵の演劇時評

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zoom RSS 幸四郎の「ラ・マンチャの男」(幸四郎演出・宮崎紀夫スーパーバイザ―、帝劇公演)

<<   作成日時 : 2012/08/19 14:31   >>

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「ラ・マンチャの男」を観る(2012年8月18日マチネ)

 1969年春に帝劇で初演された「ラ・マンチャの男」を久しぶりでみた。
デ―ル・ワッサーマン脚本の原作を変えずに上演しているのは、世界でも幸四郎のセルバンテスだけであるらしい。
 やはり古さは否めない。

 ニューヨークの初演が1965年で5年間続演されたヒット作で、20代の染五郎時代に幸四郎は初演した。当時は好評で、染五郎は1970年にニューヨークに招かれ英語で60ステージも演じたという。凄いことだ!

 今回の上演で1200回を超えるらしいから、まさに染五郎・幸四郎と成長した一人の俳優のライフワークともいうような作品といえる。

 杉村晴子の「女の一生」、山本安英の「夕鶴」そして近年の森光子の「放浪記」と共に、一人の男優の上演作品として記録に残るものになるだろう。

 スペインのセルバンテスが17世紀初め、ちょうどシェークスピアが「ハムレット」などを書いた時に、上・下の長い小説を書いた。
 それは自身の体験をもとにした作品であり、その中で過去の存在へとなっていかざるをえない兵士に夢をみさせる。かつては王様のもとで個として闘い、讃えられ、栄光の中にあった騎士道は、兵士が個から集団の闘いへと変わっていかざるを得なくなった時代に消えていく。この芝居にはそういう背景がある。中世の終焉である。

 セルバンテスが宗教裁判にかけられる、その裁判へ出頭する間に、物語を考えた。
それがドン・キホーテという騎士の物語で、牢屋から出た騎士物語は「夢」を求めて――姫を救い王様からその栄光を讃えられることを願う――現実の最下層の生活をしている人々の間で混乱と同意を得ながら、
最後には一人の女、アルドンサを目覚めさせて、自身は天国へ旅だつ。

 二重三重に変身するセルバンテスという役を幸四郎は、手慣れた様子で軽く演じていた。
が、似たような表現はあきが来る。

 二時間五分の上演時間中、前半がどうにも単調で、舞台にリズムが出ていなかった。
そして場面場面が細切れになる。筋は次々に変わるが、舞台には一つの連続し緊張した空間がほしい。

 やはり、演出は別の人に任せた方がいいだろう。宮崎がどの程度意見を言ったのかはわからないが、慣れてきた時が舞台は危険なのだ。舞台からの熱がなければ、観客席も冷めるのだ。

 幸四郎の歌はさすがに長くやっているだけにいいし、相棒のサンチョ(駒田一)も旦那さま大事で、しかも軽快でよかった。神父(石鍋多加史)の歌も綺麗な声で、落ち着いた演技もいいし、カラスコ(福井貴一)は二枚目で歌もいい。牢名主(上条恒彦)はどっしりとしているし、歌も低いところはいい。皆がいいのに、何かがたりない。

 アルドンサの松たか子は、以前蜷川の舞台で観たことがあるが、声の質が単調で幅がないから、演技がどうにも単線になって、せっかくのいい役を、もったいない。
 歌もよくなくて、どうしてもっと稽古をしないのかと、不思議に思った。
 
分かっているだろうが、歌は稽古を積めば魅力的な歌を歌えるようになる。そうすれば舞台のセリフの声も幅が出て、演技が映える。

 あばずれ女が、ドン・キホーテに出会って段々変革していく場、少し感じがでていたが、なにせ前の場面が単調だから・・・・・・どうにも明確ではない。もっと役を生きてほしい。

 アルドンサが、男たちにいたぶられ、強姦される場は、長すぎる。
65年という時代の作品であることがよくわかる。輪姦や強姦は、他方では観客の女たちを犯しているのと同じなのだ。当時はそれを面白がる観客が確実にいたからだ。

 この場面はダンスで表現して、さっと終わらせなくてはならない。観客は、それだけでよくわかる。
強姦は人間の行為の中でもっとも悪質な犯罪であり、リアルに何度も繰り返すのは女性への冒涜である。

 セルバンテスの哀愁を(「見はてぬ夢」)現代の舞台で表現するためには、舞台にリズムをつけて、個々の俳優たちの個人芸に終わらせずに、一つのカンパニーとして構築しなければいけないだろう。

 おそらく幸四郎は、20代からの自分の俳優としての生きてきた道の一つの指針として、この作品を位置づけ、これからも演じ続ける意志があるとみている。

 新しい演出家を見つけて、新しく演じてみたらどうだろう。
同時に娘ではない女優と共演した方がいい。親子は力関係があるから、特にこのような役の場合はそう思う。

 染五郎の時代に、菊田一夫が、歌舞伎役者であった染五郎を現代演劇の俳優にしたいと思った魅力のある存在だ。

 21世紀の「ラ・マンチャの男」を見せてほしいと思う。




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細野 晋司

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