井上理恵の演劇時評

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zoom RSS 宝塚花組 明日海りお主演「MESSIAH 異聞・天草四郎―」(原田諒作・演出)

<<   作成日時 : 2018/08/03 10:27   >>

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明日海りおの「MESSIAH ―異聞・天草四郎―」を観る(2018年8月2日ソワレ宝塚大劇場)

 久しぶりに原田諒は明日海りお率いる花組生たちといい舞台を作った!!!  

同行の友人(演出家)共々、興奮。
それにしても明日海は、まことに素晴らしいスターだ。
多くの才能に恵まれた明日海がどこまで行くのか、ますますこの先を見つづけていきたくなる。


原田は、宝塚の期待を一身に背負った作家・演出家であるが、作品にムラがあり、出来不出来が多すぎた。
今回は明日海りおの魅力的な部分を多面的に引き出せる本と演出で、明日海もやりがいがあったことだと推測している。
今後外の仕事をして、本も演出も〈荒れ〉ないように願っている。


 「MESSIAH」 とは、「メシア」のこと。つまりは救世主だ。ギリシャ語では「クリストス」…日本語で「キリスト」。
ユダヤ教では〈世界に平和をもたらす存在〉とみなされ・・・
キリスト教とイスラム教では〈ナザレのイエス〉・・・・    
 (諸説あるから詳細を知りたければご自身で探索を・・・・)

この国の歴史上「最大の百姓一揆」(原田「謎多き救世主」)と位置付けられている「島原の乱」を、
原田は「百姓一揆」ではなく、〈自由と平和を求めた〉「キリスト教徒の一種の革命的行為」と位置付けた。

もしかするとこの国初めての〈革命的行為〉であったかもしれないというわけで…これが「異聞・天草四郎」の「真意」。(フランス革命より・・・はやいではないか・・・・・1637年・・・たとえ不発に終わった闘いであっても・・・・)

さらには様々に推測可能な天草四郎という存在を、倭寇(海賊)の一人と位置付けた。

倭寇は、歴史的には13世紀から16世紀にかけて日本近海で活躍(?)した海賊で、日本人が多くをしめていた時と中国・朝鮮などの人々が日本人と共に働いた(?)時とに諸説別れるようだ。

秀吉の「海賊停止令」で姿を消したという説もあるから、この作品の時代設定の17世紀時にその残党が存在していたかどうかは、不明。

この辺りは、実はどうでもいい。〈虚と実〉の微妙な間を描くのが演劇であるから・・・・・

原田がこの作品の構想を練っていたのは早く、今年3月に現地を探索したというから、おそらくそれ以前、昨年からであったのではないか・・・・

たまたま今年6月30日、ユネスコで「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界文化遺産への登録が決定されたから、偶然にも世界の流れに呼応した形になった。

実は、彼の地に残された図譜の表象を以下に上げた毎日新聞の記事で、みてから宝塚の舞台を見たので、
「革命旗」とでもいえるものや、箱型に隠されたゼウスや様々な南蛮絵を装置に取り込んで、摩訶不思議で斬新な世界を生み出していたことが分かって非常に興味深かった。

いつもながら宝塚舞台は素晴らしい! 原田は舞台転換の運びがあまり上手ではなかったのだが、今回は装置をうまく使い踊りもうまく入れて上手に動かしていた。

その点でも、今、あの一揆と言われたものはなんだったのか・・・・
あれは〈一種の革命〉だったのでは・・・・、とわたくしたちが問いかけることのできる舞台になっていた。

つまり、単なる天草四郎とは何かを探る一代記ではないのだ。

興味のある方は、以下をクリックして、御覧になるといいだろう・・・・

毎日新聞7月30日夕刊記事「潜伏キリシタン 図譜刊行へ」
 https://mainichi.jp/articles/20180730/mog/00m/040/007000c
 

 さて、舞台の構成は、1656年徳川家綱(星乃あすか・・若々しさが清々しい)の世。一人の絵師山田祐庵(柚香光・・・驚くほど好演)が江戸城に呼ばれたところから始まる。
家綱は、島原の原城で発見された「聖母マリア」の絵を見せて、島原の一揆の生き残りである祐庵に、真実を聞くところから始まる。時代は20年前に・・・・・さかのぼる。

荒れた海で海賊船から一人天草に流れ着いた夜叉王丸(明日海りお)は、隠れキリシタンの人々(高翔みず希・瀬戸かずや等々・・・みな好演)に救われ、益田甚兵衛(一樹千尋・・・いつもながらどっしりと舞台を締める)の息子として四郎の名前を与えられ、この地で生活をすることになる。

天草には財宝が隠されていると前々から言われていて、海賊(飛龍つかさ他)の夜叉王丸たちは、それを探していて、天草に近づいていたのだ。

子供の歌から、鬼が住むという島の存在を知って、夜叉王丸こと四郎はそこへ行く。
そこには絵師のリノ(後の祐庵・・・柚香光)と流雨(仙名彩世・・・好演)がいた。聖母マリアの絵姿を流雨をモデルに描いていたのだ。

江戸城では松平信綱(水美舞斗・・・辛抱役を好演)から、将軍家光が石高の報告を受けている。天草のある島原からは法外な石高が報告された。鈴木重成(綺城ひか理・・・・この役は重要で、キリシタンたちに情報をしらせ、聖母マリア像を残した存在・・・綺城もそれに応え生真面目な侍を好演)がそれに異を唱えるが却下される。

法外な石高の報告は、現城主松倉勝家(鳳月杏…悪役を品よく演じていてとてもいい)と家来(天真みちる・和海しょう)たちの策略で、松倉の権力欲による。
民百姓は、キリシタン弾圧と過酷な年貢の請求に耐えられなくなり、飢えて死ぬものも多くなる。

彼らは「はらいそ」(天国)へ行くことのみを考えて苦しい現実から逃れようとしていた。

そこで語り出し動きだすのが四郎・・・・現世で幸せにならなくてどうする、~は一人一人の裡に存在しているのだ。
自由で平和な生活・世の中を獲得しようと、たちあがることを彼らに説く・・・・

この場は明日海の説得力ある演技で秀逸・・・・・皆が立ち上がる場面の音楽も照明もいい。

松倉には一揆は抑えられず、幕府から松平が軍を率いて取り囲む。

松平は彼らに交渉を求める。代表して行ったリノは、〈四郎の首と全員の棄教〉を約束させられる。
そんなことはあり得ない。

四郎を殺そうとして、皆から地下牢にいれられたリノを四郎は逃がす。
この出来事を歴史に記録する存在になれと…
この辺り、たしか「忠臣蔵」にもあったな・・・! と思いつつ、ありうることだと・・・・目をつぶる。

そして、彼らは全滅する。多くの謎をのこしたまま・・・・

終幕、20年後の江戸。
話をきいた家綱は、百姓一揆ではなく、キリシタンの反乱であったと記述し、聖母マリアを完成せよという。松平は、幕府に反旗を翻すキリシタンの反乱などと位置付けては徳川の権威に傷がつくと反対するが、家綱はそれを拒否した。

(上に立つものがいつもこうだといいのだが・・・・・と我国の今を思う・・)

こうして図版は残されたのである。

縦横に張り巡らされた伏線も見事に生きていた。

欲をいえば、原田のセリフは現実的過ぎるので、今少し誌的な言説があるといいのだが・・・・

とはいえダンスで表現された場面や歌もよくて、花組生たちの努力に大いに拍手したい。

宝塚は8月20日まで、東京は9月7日から10月14日、
前売りは8月5日から・・・・

是非一見を・・

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